市民社会フォーラム共同企画 読書会レジメ
2006/4/30 レジメ作成 okaby
「戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方―エコとピースのオルタナティブ」田中優 (著)
第1章戦争の原因はエネ・カネ・軍需
第2章地球温暖化の問題
第3章エネルギーをシフトする
第4章カネの問題
第5章別なカネの使い方
第6章新たな社会へ
まえがき
この本は、戦争をやめさせ、地球温暖化を中心とする環境破壊をやめさせられる、新たな社会づくりの方法について述べた。
個人としての私たち市民は取るに足らない存在だが、問題との間にいくつかの接点がある。
貯金や買い物、投票行動や生活するためのエネルギー消費など
その接点を通じて、市民が社会の仕組みを変えていくなら、オセロゲームのように、今見えている世界を「ネガ−ポジ転換」するように変えられるかもしれない。
可能性が見えない中での活動は辛いし、効率的でもない。どうしても心情的な傾向に傾いて、「ライフスタイル」や「心の平和」というような内的世界に陥りがちに成りやすい。
貯蓄の使われ方 戦争をさせる資金→平和のための産業への資金提供
税金 石油・原子力→自然エネルギー
貯蓄 市中銀行・郵貯→市民自身の投資
買い物 スーパー→フェアトレード
第1章 戦争の原因はエネ・カネ・軍需
・イニシエーター(発ガンの原因物質)→プロモーター(ガン促進物質)
Ex.イラク戦争
政府高官たちの「ウソ臭い発言」←プロモーター
「エネ・カネ・軍需」←イニシエーター
・イラク戦争の原因 「石油価格の決定権」「隠されたドル危機」
・アメリカの軍事費は巨額の国債によって調達
圧倒的に日本の購入によって支えられている 33頁図
私たちの銀行預金は、間接的にアメリカの軍事費となり、イラクの人々の頭の上にミサイルを届けていることに
・軍事の民間委託 民間軍事請負業者(PMC) アブグレイブ刑務所
・軍事の犠牲になる教育・福祉 「公共事業として自己目的化するブラックホール」
・「ゲームでなら敵を倒すことに心の痛みを感じない」
紛争・戦争には冷徹なビジネスと利潤の世界が横たわっている。よく言われる「心の平和」というような感傷・感情論が通用する舞台ではない。そもそも世界を相手に巨大ビジネスを遂行する人たちは、不信心で不道徳な狭隘な人間性の持ち主だろうか。事実はむしろ逆だ。学歴もあり、信心深く、時として芸術的才能さえあるのだ。家庭に戻ればいい父であり母である。
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タテのイメージ
政府に働きかけるなり自ら政治家になるなりして、上から下へ、下から上へと働きかける方向
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ヨコのイメージ
隣の人に話すなり、街角でムーブメントを起こすなりして、多くの人との連帯を作り出す方向
3.ナナメのイメージ
政府に働きかけても効果がなく、ヨコの人たちに働きかけても反応を示してもらえないときに、自分たちでまったく新たな仕組みを考えて、実際にやってみせる方向
第2章地球温暖化の問題
・経済合理性から原発はもう造れない
政府は「電力需要は人口に比例する」と言ってきた←人口減少するので電力消費は減る
着工から完成までに、25年〜30年かかる(54頁図)
・温暖化防止に「ライフスタイル論」は役立つか
日本全体で排出される二酸化炭素の約半分は、たった200事業所から出されている。
家庭からの二酸化炭素の排出量は、全体の8分の1(13%)
「家庭は3分の1を排出している」?←これまで家庭以外の「病院、コンビニ、オフィス、デパート」までを「民生用」として公表していたから。
政府は「地球温暖化防止大綱」の中で、あたかも地球温暖化が家庭の責任であるかのように「1日1分シャワーの時間を減らせ」「家族は一部屋に集まって同じテレビを全員で見ろ」というような、実現困難で意味の乏しい「個人の心掛け」ばかりを並べて、やる気をなくさせている。200の事業所が平均10%効率を上げるだけで、日本全体の排出量は5%も減らすことができる。
しかし誠実で使命感に強く、勘違いしてしまった人々は、家庭のリサイクルや節水で温暖化を防げると精一杯努力する。しかも悪いことに、自分よりできていない人を攻撃してしまうことが往々にしてある。これが市民の間に溝を作り、意味のない争いを生んでしまっている。
企業はコストに敏感だから、二酸化炭素税を。
自然と共生したスローなライフスタイルを実現するための「努力・忍耐」は、ジョーカー「切り札」。人々を追い詰める前にできることがあるのだからそちらから進めて、最後にジョーカーを使うべき
・電力料金の体系(62頁図)
家庭の電気料金は、3段階の価格設定によって、同じ月の中で使えば使うほど単価が高くなるよう設定されている。だから節約する。
事業系の電気料金は、基本料金が高い代わりにキロワット時当たりの単価が安いので、使えば使うほど電力単価が安くなっていく設定になっている。
・「ピークは夏場の平日、午後2時から3時にかけて、気温が31度を超えると現れる」
日本の発電所の稼働率は58%にすぎない
電気料金の価格を変動させ、ピークが出そうな時間帯には高い単価にする方法
エアコンなど電力消費の大きな機器を別配線にして、需要を外部からリモートコントロールする方法
ドイツ・北欧並みの需要コントロールを実現すれば、全国で電気のピーク需要が25%減り、その分だけ原発(日本全体で設備量は22・5%)が不要になる。
第3章エネルギーをシフトする
・家庭でできる二酸化炭素削減
約半分が電気によるもの、次に車(68頁図)
電気の約1割は待機電力が消費←スイッチ付コンセントを
電力消費の四天王「エアコン・冷蔵庫・照明・テレビ」←家庭内の3分の2消費
小さくなった「電力プール」に電力会社の電気を注ぐのではなく、自宅の屋根に太陽光発電をつける(2キロワット、170万円、8畳分の屋根)
家屋の断熱:開口部の窓を複層ガラス、壁に断熱材、木製サッシ←冷暖房の熱利用が4分の1節約される。ビニールと石油製品は結露し、カビが生える原因になる。
オール電化は経済的にプラスになっても、エネルギー的にプラマイゼロとは限らない
IH調理器の電磁波の問題
壁や床の温度を変える
「ハービマンハウス」(84頁図)
「キャパシタ」(86頁図)
「森林バイオマス」「カーボンニュートラル(炭素的に中立)」
「カスケード利用」(89頁図)
トウモロコシからの植物性プラスチック「ポリ乳酸プラスチック」(90頁図)
バイオガスプラント(91頁図)
・自然エネルギーの導入(94頁図)
EU全体で現在15%(97年)、2010年には22%を予定
日本は2010年の目標値が1.4%、現状でわずか0.2%(水力ダムを含んだとしても7%)
第4章カネの問題
・郵貯・簡保・年金を原資とする「財政投融資」の使い道
大規模な公共事業、カネ貸しODA、世銀やIMFへの原資、貿易保険や輸出信用
・途上国の貧困とODA
日当100円の労働者と100円ショップ
巨額債務:借りたのは「外貨」だから、輸出しなければ返済可能な通貨にならない
世界で一番カネを貸付けているのが日本。日本のODA の「プログラム援助」は、世銀とIMFが途上国に押し付けている「構造調整プログラム」という返済計画に従わないと貸さないということになっている。
未曾有の財政赤字状態に陥った日本政府は、ODAから手を引こうとし、02年頃から援助額を減らし始める。日本がODAとして新規に融資する額を減らし、過去に援助した資金を回収しようとしたために、今や援助額以上の金額を「援助」の名の下に途上国からとりたてている。借金取立てが援助に。
・イラク戦争への軍資金を提供したのは、日本の私たち(103頁図)
日中・太平洋戦争をしたときの資金も私たちの貯金。
バブルに地上げ屋を支えていたのも、ゼネコン疑惑の融資と救済も
農協は「農業の自由化反対」を唱えているが、余剰資金は農林中金に預け、そこから農林中金証券(今はみずほ証券に合併)という子会社を通じて、「世界の農業の自由化を促進する」世銀の債権を買っている。
■社会的責任投資(SRI)(105頁図)
・ポジティブ・スクリーニング
「こうしたものに使ってほしい」と貯蓄先を選ぶ
・ネガティブ・スクリーニング
環境破壊や人権侵害を起こしている企業に対して、銀行が融資しないように圧力をかける方法
※実効性で言うならば、ネガティブ・スクリーニングの方の現実への効果が大きい
ポジティブ・スクリーニングではなかなか明確な基準が出せないために、国内の軍需企業や不祥事を起こした企業を入れていたファンドの例もある。日本ではネガティブ・スクリーニングの例はないと思う。SRIファンドは平均して3割の損失
■エコバンク
80年代からとくに欧州を中心として登場。だが、「エコロジー」という眼鏡にかなう投資先が見つからず、全体として1割程度しか融資できていない。残りの9割は投資先に困って国債を購入。ヘタをすると、エコロジーな核実験にカネを投資することになりかねない。
「エコロジーだけでは十分な投資先がない」という教訓
■マイクロクレジット(「小さな信用」)
「グラミンバンク」 貧しい人たちに5人組の連帯責任の輪を作らせ、低い金利でわずかな金額を融資し、彼らの預金先となるバンクをつくった。大成功し、数年後にはバングラディッシュ最大の銀行となった。
しかし、国内にマイクロクレジットの乱立を生み、多重債務者が増え、5人組制度のため共倒れを生み出した。モンサント社との提携で、遺伝子操作作物の導入と農薬輸入をしようとして、世界中のNGOに叩かれて断念した経緯もある。
一方でこの仕組みは返済が確実になる仕組みだと世銀など国際金融機関にも評価され、世界的にまねられるようになった。
良き支援者になるか、地獄からの使者になるかの分かれ目は、マイクロクレジットの運営の趣旨・金利・地域との連携次第。そのあり方次第で、「講」にも「高利貸し」にもなる。
■地域通貨
地域通貨が実体経済に影響する形で成り立つのは、インフレの激しい途上国だけだという現実。先進国では、少数の、ほとんど趣味的な形でしか成り立っていない。
地域通貨はモノの価値と一緒に動く通貨なので、インフレのときに発達する。
■「市」(いち)
近くの農家が作った生産物を持ってきて市で売り、また近くの農家の生産物を買って帰るだけ。貨幣でカバーされる以前の、等価交換や相互扶助などの非貨幣経済。
「1日1ドル以下の収入で生活している」ことと「貧しい地域」とは必ずしも一致しない。
地域通貨と同じように、地域での資金循環をもたらす効果がある。
・地域資金の「バケツの穴をふさぐ」こと
郵貯や都市銀を通じて東京に集められる資金の使い道は、東京の側が決める。それが地方に戻されるときには「公共事業」と呼ばれ、そもそもは自分たちの出していた資金なのにありがたく受け取る仕組みになっている。
自分たちのカネは自分たちの地域で集め、自分たち自身で、自分たちのカネの使い道を決めることができないものだろうか。金融も自然エネルギーと同じように、地域分散型にした方がいい。
第5章別なカネの使い方
■未来バンクの誕生
貸金業登録(サラ金と同じ制度)による非営利バンク
資金は自分たちだけのものを利用し、金融機関からは借りない
融資先は環境だけでは不十分なので、福祉と市民事業(NPOのように自分たちで社会作りをめざすもの)の3つにする。
金利は3%の固定、1%は事業の事務費、残り2%を貸し倒れ引当金に準備。100人に貸したら2人くらいは返せなくなるだろうと考えて。
組合員だけに融資する互助的な団体にし、融資は出資金の10倍まで、一次的な「つなぎ融資」の場合には100倍まで。
総会議決権は出資額1円1票とし、出資リスクにあわせた投票権に
その人の持っている資産額の1割以上は出資しないでもらいたい旨を説明
配当はほとんど困難であることを明示
出資した見返りは環境や福祉・市民事業の進展以外にないと説明
・未来バンクは大きくなることをめざしていない
資金需要は環境・福祉・市民事業に必ずあり、貯蓄額は地方の人の方が多い
地方の各地に「未来バンクのようなもの」を作ってもらい、金融の地域分散・地域自立をめざした方が趣旨に合う。
定款にも、「他地域で作ろうとする動きに対して助力する」
■ap bank
Mr.Childrenの櫻井和寿さん、音楽プロデューサーの小林武史さん、音楽家の坂本龍一さんらが私財を提供して、環境などをテーマに融資
・2つのいいこと
-
これまでの良くない融資に加担しなくてすむようになる。
既存の金融機関が別なあり方を模索
2.自分たちのカネを使って、自分たちの進めたい事業に、資金を提供することができるようになる。
・足温ネット
省エネ冷蔵庫の買い替え融資
・「信頼の年輪」(131頁図)
「ホームページ上で融資内容、返済状況について公表すること」を条件に明示すれば、融資を受ける側やっている事業のすばらしさを多くの人に知ってもらえると同時に、返済のプレッシャーを受ける仕組みにできる
これまで金融機関が考えてきた「不動産担保」や「プライバシー保護のための非開示」が、いかに的外れか
・「非営利のビジネス」の可能性
どこかにぶら下がって生きるのではなしに、自ら社会を作っていける可能性。
2つのセクター、企業や行政は絶対に必要な社会的な存在だが、市民のセクターもなければならない。もし行政が不効率で不親切なら、もっと効率的で親切なサービスを行政に代わって、市民自身が提供する。もし企業が金儲け主義で価格を高止まりさせるなら、市民が同じものを低価格で提供する。
この3つの社会的なセクターのチェックアンドバランスが働くようになった社会こそ、生きやすい社会になるのではないか。
第6章新たな社会へ
・石油に頼らない生活パラダイム
石油製品→バイオマス素材
プラスチック→ポリ乳酸プラスチック
車の燃料→アルコールや廃食用油・植物油
電気→自宅の小さな発電機とキャパシタ
水→雨水の利用が半分以上、残りはリサイクルされた水
ガス→バイオマス由来
ゴミ→紙・プラスチックは素材、生ゴミはバイオガス原料、繊維や木草は乳酸プラスチックなどの原料やバイオマス燃料、産油は軽油代替燃料に
現在と比べると4%だけのゴミになる
リサイクル困難な塩化ビニルやカーボン紙などは処理費を生産者に負担させる
※これまでの社会は、石油という中央集権を余儀なくさせる中心から広がる、ヒエラルキー状に社会が形成されてきた。しかしエネルギーが各地で作られるようになるとき、社会は地域分散型に変化する。(141頁図)
・本当のセキュリティー
可能なら、石油に頼らない社会に10年程度で移行できるのが望ましい。円の暴落が近づいているからだ。
日本政府は800兆円以上もの莫大な負債を抱えているものの、人々の貯蓄がそれを上回る状況にあるので、他国の投資家から投資してもらわなくても経済崩壊には至らない。
問題なのは、現在進行中の少子高齢化。稼動年齢層が減り、若年労働者2人で1人の高齢者を養わなければならなくなるために、若年層の可処分所得は著しく減る。
現在1400兆円ある貯蓄も、自らのローンを差し引くと実質1000兆円。これが減り始める。
いずれ国の借金額が人々の貯蓄額を抜くときがくる(145頁図)
不足分の負債は海外の投資家から借りざるを得ないが、日本は歴史上例を見ない「超少子高齢化」、しかもエネルギー自給率は1割、食料自給率は4割、2100年には人口が半減し、高齢者ばかりになっている国。リスクが高くなり、高い金利でなければ融資されない。すると円は信頼されないのだからじりじりと価値を失っていく。
そうならないためにも地域で自給できるエネルギーと、地域で自給できる食料の強みを持ちたい。
・市民セクター(「共益」)2つの形
■公益型NPO(所得再分配型NPO)
寄付を受けて実現する「高貴なこじき」型
日本では個人からの寄付に対する税控除の仕組みが貧弱で、そのため寄付が乏しく行政の下請け化しやすい。個人の寄付金が税控除の対象とならなければ、発展の余地が乏しい。
■産業型NPO(非営利ビジネス)
収益分配を予定しない「トクしないビジネス」型
Ex.ピースボート
独立した個人の出資から船旅を立ち上げ、通常の価格の半値で世界一周旅行を提供する。しかし目的は「過去の戦争に学び、未来の平和を創る」ことだから、そこにはレジャーでは見られない講座・企画・オプショナルツアーが存在する。活動から得られた収益は、途上国の人々への支援活動や平和活動に投ぜられ、彼ら自身の利益とはならない仕組みに。
・個人の生き方としての非営利・非政府(155頁図)
営利企業に勤めるから営利目的だけで生きるというわけではないし、行政に勤めたとしても統治だけに生きるものでもない。個人として精神の自由さがどうしても必要。
「市民と市民の直接のつながりを考える思考(=NG)」と、「社会的分配の公正をめざす思考(=NP)」
モノを買うときに貧しい人々を収奪しない製品を買ったり(フェアトレードなど)、募金するにしても直接困っている人に届けられるルートを選んだり(開発支援をするNGOなど)、貯蓄先を選んだりする。
人は単に「経済主体」だけでは生きられない。両方を常に意識する生き方。
それが団体化したものが、NGOでありNPOにすぎない。
おわりに
ぼくたちが本当に実現したいことは何なのか?そこを考えてほしい。地球環境や戦争の問題を解決したいのか、それとも自分は努力しましたというアリバイを得たいのか。
問題を解決するためには、問題発生の原因と、原因に至る動機を調べなければならない。いくら懸命に努力していたとしても、的外れな対策では解決に結びつかない。問題を解決することは、気持ちの問題ではないのだ。
地球環境や戦争の問題で企業に解決できる余地が大きいというのは単純な事実なのだ。
環境破壊や戦争が利益となるか、損失となるかのポイントを切り換えれば、社会の流れはおのずと決まってくる。
「自分の意志で選択した未来」は疲れない。「せられ仕事」を「自らする仕事」に変える