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6月16日(土)1350から「志願兵」長野市芸術館で上演、500円

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    sage body

    http://www.irouren.or.jp/conference/2018/doc/bunkakai2018.pdf

    「志願兵」若月俊一作 全五幕

    時=昭和12年春(日中戦争の直前)。
    所=北満第一戦守備の東京部隊(関東軍所属)。



    第一幕

    玄界灘沖の上。輸送船の甲板。
    汽笛の音。はげしい揺れ。
    風の音。波の音。
    暗い海。つめたいしぶき。


    あれなんだろう。
    (よろめいて、甲板のさくにつかまって、海の中をのぞき込みながら)
    サメかね。
    ほら、あんなに船にとびかかってくる。
    イルカかな。

    あぶないですよ。
    あんまり前へ出ると。
    ・・・すごい波だなあ。

    すごいなあ。
    夜の海ってやつは。
    なにしろ玄界灘だからなあ。

    こうやって海を見てると、人間なんて小さいもんだなあ。

    そりゃそうだよ。
    人間なんて小さなもんだ。
    ぼくは、人間てもっと立派なもんだと思っていたけど・・・。
    軍隊に入ってみりゃ、豚や犬以下だ。

    もう日本も見えなくなっちまった。

    ああ。
    もう、おさらばだよ。
    いつまた日本に逢えるか。・・・

    わたしゃぜひもう一度内地へ、東京へ帰らなくちゃならない
    と思ってるんですがね。
    ぜひ。・・・

    そりゃ、誰だって・・・。

    そりゃ、そうだけど、わたしゃ特に・・・。

    軍隊へ入りゃ、もう一巻の終わりみたいなものさ。
    しゃばの理屈は通らないんだからな。
    ・・・見ろよ。
    この船の底のすしづめさ。
    驚いたね。
    まるでカイコみたいじゃないか。
    寝返りをすりゃ隣のやつの肩にぶつかる。
    座ろうとすれば上の棚に頭がぶつかる。
    夕べなんか、上のやつのゲロが、俺の頭の上にポタポタおっこって来やがって・・・。

    私もだいぶ吐いちゃった。
    やっときょうになって少し食えるようになったんですがね。
    ・・・きのうの使役は辛かった。
    船に弱いんですね。

    知ってるよ。
    きのう荒木上等兵になぐられたんだろう。
    君、要領が悪いからさ。
    しかし、あの荒木ってほんとうに悪いやつだね。

    どういうわけかな。
    荒木上等兵は何かっていうと私を目の敵にするんですよ。

    どういうんだろうね。
    君みたいな善人を目の敵にする必要はないんだがなあ。

    いや、実はね、アザブ三連隊時代にゃ、いやな思い出があるんです。
    私の家内が面会に来たとき、おすしを持ってきたんですよ。
    せっかく一生懸命つくって来たと思ったもんで、つい一つ二つ食べたんですよ。
    それを荒木上等兵に見つけられてね、なぐられたんですよ。
    ・・・家内の前でね。
    あんまり見っともいい図じゃなかった。

    ほう、ひでえことをしやがんなあ。
    同じ人間だというのになあ。

    家内のやつ、泣きだしちゃってね。
    困りましたよ。
    ほんとうにあんときは恥をかきましたよ。
    ・・・家内のやつ、気の弱いやつでしてね。
    可愛そうなやつなんですよ。
    ふた親に子どものときから死に別れましてね。

    ぼくは君の奥さん知ってるぜ。
    面会所で会ったことがあるよ。
    ・・・なかなかべっぴんじゃないか。

    (苦笑して)そんなことはないですがね。
    いい人間なんですよ。
    ・・・ね、野沢さん。
    私たちほんとうに生きて帰れるでしょうねえ。

    さあ、どうかね。
    ・・・事によると今度の事変は全面的に発展するんじゃないかな。
    日本も支那も、どうしてもこのままじゃおさまらないんじゃないかな。
    歴史ってやつは、個人の希望とは関係なしに、進むからね。

    私は一介の旋盤工だから、あんたみたいな大学出と違って、
    世の中のことは何がなんだかちっともわかんないけど、
    これでこのまま大きな戦争に巻き込まれるんじゃかなわないな。
    ・・・どうしてももう一度東京に帰って片をつけなきゃならないことがありましてね。
    ・・・うちの中が複雑なんですよ。
    家内だって、もう今月で6カ月になるはずなんですがね。
    まだ正式に籍が入ってないんです。

    ふーん、そいつはまずいねえ。

    このまま、もし万一私が戦死でもしてしまったらえらいことになっちまいますからね。
    どうしてももう一度帰りたいんですよ。

    なるほどねえ。
    ・・・まったく戦争なんて罪も恨みもない人間同士を殺すんだから、
    こんな悪いこと、世の中にないよ。
    ・・・ま、くよくよしたって仕方がない。
    ・・・ああ、暗い海だなあ。
    暗いなあ。・・・

    野沢さん。
    私とあんたが隣町同士だなんて、ほんとに運命ですね。
    隣町同士で住んでいながら、てんで顔も知らないでいたのに、
    軍隊で、こうして同年兵で知り合うなんて、これもやっぱり人間のめぐり合わせ
    ってやつじゃないですか。
    馬鹿だけどよろしくたのみますよ。

    冗談じゃない。
    こっちこそたのみますよ。
    ぼくこそ大学出だと言ったって、なんにも世間のことはわかんないお坊ちゃんなんだ。
    ぼくはねいま、この軍隊の中でいろいろなことを勉強しようと思っているんだ。
    命がけで。
    ・・・しかし、辛いなあ。

    ほんとに辛いですねえ。・・・

    おい、こんな寒いところで何話してたんだ。
    馬鹿だな。
    そんなとこで煙草なんか吸ってんの見つかってみろ。
    目の玉が飛び出るほどぶんなぐられるぞ。
    馬鹿、早く海の中に捨てろ。
    うわ、寒い。
    早く船底の豚箱に入って寝ていろ。
    上等兵に見つかると、うるさいぞ。

    あの人、いい人ですねえ。

    ほんとうに人間らしいのは、二年兵じゃあの人ぐらいなもんだよ。

    だけど、このあいだ聞いたんだけどあの人アカだったそうですよ。
    だから、あの人、大学出なんだけど、万年一等兵で上等兵になれないんだそうですよ。

    ほう、そうかい。
    飯島一等兵、アカだったのか。
    そう言えば思いあたるとこがあるな。
    ・・・一方には荒木のようなやつがいるかと思えば、
    飯島さんのような人間もいる。
    軍隊ってわかんないなあ。

    敬礼!

    こんなとこで何をしとる。

    はい。
    甲板の便所からただいま帰るところであります。
    終り。



    第二幕

    第一幕より約一カ月後。
    満州(現中国大陸東北部)の関東軍兵舎の班内。
    夕方。


    おい山田。
    貴様二年兵にこんな汚い襦袢を着せて、それでいいと思ってんのか。

    はいっ、申しわけありません。
    うっかりしておりました。

    なあに?
    うっかりしてた?
    ・・・なるほど、頭のいいやつは違ったもんだ。

    馬鹿!!
    何をしてんだ!
    早く支度しろ。
    ・・・貴様、きょうは徹底的にしぼってやるからな。
    演習最中に銃口蓋なんか失くしやがって。
    ・・・それをまたボヤボヤしてやがるから、中隊長にまでわかっちゃったじゃねえか。
    貴様みたいな馬鹿、ありゃしねえ。
    おかげで、我が第二班の面目、まるつぶれじゃねえか。

    上等兵殿、申し訳ありません。

    何?
    申し訳ありません?
    この野郎、こっちへ来い!!
    申し訳ないで済みゃ軍隊はいらねえんだ!!
    早く支度しろ。

    班長殿に飯を持って参ります。

    ようし、持っていけ。

    藤田二等兵、班長殿に飯を持って行ってまいりました。

    ようし。
    皆、席につけ。
    ・・・「五カ条」始め。

    一つ、軍人は忠節をつくすを本分とすべし。
    一つ、軍人は礼儀を正しくすべし。
    一つ、軍人は武勇を尚ぶべし。
    一つ、軍人は信義を重んずべし。
    一つ、軍人は質素を旨とすべし。

    よし、食べてよし。

    くそ!
    山田の野郎、何やらしても一番遅れやがる。
    もたもたしてやんなあ、まったく。
    早く食え。
    軍隊では昔から早めしに早グソってきまってるんだ。
    そんな甘いことで匪賊討伐ができると思ってんのか。
    そんなこっちゃ、逆に匪賊にのされちゃうぞ。

    班長殿の食器を下げて参ります。

    班長殿の食器を下げて戻りました。
    石塚上等兵殿、
    しばらくしたら班長殿の下士官室に来るようにとのお言葉がありました。

    下士官室へ?
    もういけねえ。
    きょうは班長にこってりお目玉だ。
    実際、うちの初年兵はたるんでやがるからな。
    きょうの演習で三人も落伍しやがった。
    まったくあきれかえってものが言えやしねえ。
    おまけに山田の野郎、何をもたもたしてるかと思や、
    「班長殿、銃口蓋をなくしました」なんて。
    ほんとうにまぬけな野郎だよ。
    銃口蓋なんかなくしたら、かまうこたあねえ、すぐ他の班から員数(いんずう)
    つけて、知らん顔してりゃいいんじゃねえか。
    おかげで、こっちはこれから班長さまに大目玉だ。
    今晩は、てめえたちあとで少しばかりすじ金入れてやるから、ゆっくり待ってろよ。

    上等兵殿、きょう、うちからこんな慰問袋がまいりました。
    古兵の皆さんで召し上がってください。

    なんだ。
    ふーん。
    お、こりゃあうまそうなチョコレートがあるじゃねえか。
    どうだい一つ。
    こいつはちょっといただける。
    お前も食え。

    はっ。
    自分はいいであります。
    古兵殿にあげろと書いてありました。

    ふーん。
    なかなか話せるな。
    誰だ、そりゃ。

    はっ、自分の妻であります。

    何?
    妻?
    貴様かかあ持ちか。
    へええ、そんな若いくせに。
    けしからんな・・・。
    そいじゃ、この班じゃ、かかあ持ちが二人いるわけか。

    山田の野郎とな・・・。
    あんなやつのとこへくる女の気が知れねえよ、まったく。

    そりゃお前、「たで食う虫も好きずき」って言うからな。
    人のことはどうだっていいやな。

    いくらたで食う虫でも程度があらあな。

    藤田。
    てめえのうちは商売何してるんだ。

    はっ、料理屋であります。

    ほう、料理屋。
    なるほどいいたまだ。
    そいじゃ、いい娘(こ)たくさんいるか。

    はっ、たくさんいるであります。

    ふーん、そうか、そりゃてえしたもんだ。
    除隊したら遊びに行くぜ。

    はっ、ぜひ遊びに来ていただいたいと思います。

    よせよ。
    除隊できると思ってんのか。
    いまに支那と全面戦争だ。
    除隊どころのさわぎじゃねえよ。

    いやな野郎だな。
    わきからつまらねえこと言いやがって。

    あああ、俺も早くかかあもらってやりてえな。
    八日八日の外出に「満州ピー」買うんじゃどうにもなんねえや。
    ああ実につれえ。

    おい。
    いま笑ったのは誰だ。
    ・・・誰だよ。
    ・・・すこし甘いこと言や、いい気になりやがって。
    ・・・よし、みんなここへ並べ!
    総ぴんただ。
    さあ、皆集まれ。
    整列。
    気をつけ!
    おや、笑いやがったな。
    野沢。
    山田。
    こっちへ来い。

    自分は笑ったりなどしません。

    やかましい。
    軍隊じゃ、言い訳は通らねえんだ。

    なに。
    二年兵の話がおかしくて笑った?
    なめるんじゃねえよ。

    よせよせ。
    そんなことおこったってしょうがねえ。

    貴様は黙っとりゃいいんだ。
    てめえら、初年兵のくせに二年兵をなめやがって、
    それですむと思ってんのか、この野郎。

    やれ。
    見せしめだ。
    徹底的にやれ。

    てめえたちに関東軍独立守備隊の味を味わわしてやる。
    内地とはちいっとばかりちがうぞ。
    銃をもって来い。
    ・・・気をつけ!
    捧げ砲!
    ・・・五分間。
    ばか!
    なんだそのざまは。
    かかとをあげ、なかば膝を曲げ!
    なんだ、そのざまは!
    この野郎、ふざけやがって!
    この野郎。
    内地たあちがうんだぞ この野郎!!

    今度は俺が鍛えてやる。
    なめやがって。
    野沢!!
    貴様だいたいふだんから態度が大きい。
    大学出だなんて大きなつらしやがって。
    この野郎。
    さ、貴様ら二人、「ウグイスの谷わたり」10回だ。
    始め!
    始めったら始め!
    早くやれ!

    はい。
    「ウグイスの谷わたり」10回やらせていただきます。

    山田、てめえまた笑ったな。

    いえ、わ、わ、笑ったりなどしません。

    何をこの野郎、言い訳するか。
    山田、「ウグイスの谷わたり」もう10回!!

    山田二等兵、「ウグイスの谷わたり」10回やらせていただきます。



    第三幕

    第二幕よりさらに二カ月後
    「馬占山高地」で演習中。
    禿げ山の各所に草むらのかげができ、すでに春の面影がただよっている。
    遠くから班長の号令。
    上等兵たちの叱咤する声。


    おい「止まれ」だぞ、あの草むらがいい。
    あー、ちきしょう。
    もうだめだ。
    ぶったおれそうだ。

    ちきしょう。
    犬や猫じゃあるまいし、まったく。
    朝から走らせ通しじゃねえか。
    もうだめだ。

    あーあ、まいった、まいった。
    おいどうした、山田?
    ばかに苦しそうじゃないか。
    馬鹿だなあ。
    もっと要領よくやるんだよ。
    馬鹿正直に、匍伏前進なんか続けて来るやつがあるか。
    見えないところはインチキするんだよ。

    はあ、第五班がやられてるな。
    ・・・おい。
    しめた。
    おい。
    みんな第五班のところへ行っちゃたぞ。
    おい。
    鬼のいない間に、ちょっと洗濯といこうじゃないか。
    遮蔽物を利用してね。
    ここなら向こうから見えない。
    ちょっとひと休みだ。

    ちきしょう。
    ほんとうにまいったね。
    あーあ。

    まいったよ。

    おや。
    おいおい。
    あれ、ヒバリの声じゃないか・・・。
    そうだ、たしかにヒバリだ・・・。
    なつかしいなあ。
    久しぶりだなあ。

    いつのまにか、もう春なんだなあ。

    東京じゃ、いまごろ、もう桜も満開だろうな。
    ちぇ、ビールで一杯やりたいな。
    新宿あたりで。
    ちきしょう・・・。

    あっ、たしかにヒバリの声だ。
    ああ。
    ・・・おい山田。
    大丈夫か。
    お前、どこか悪いんじゃないか。

    私は前に、「腎臓脚気」とかになったことがあるんですよ。

    「腎臓脚気」じゃない。
    「心臓脚気」だろう。
    そりゃ、たしかおっかない病気だぜ。
    どうして診断してもらわないんだ。

    いや診てもらったんだけど。
    ・・・なんともないって、軍医さん言うんですよ。

    だって、たしかになんともあるじゃないか。

    ・・・あのへっぽこ軍医に何がわかるもんか。
    なんだってかんだって、みんな「異常なし」なんだ。
    ひでえもんだ、まったく。
    それに自分は酒ばかりくらいやがって。
    夜は芸者買いだ。

    それも日本人の芸者だそうじゃねえか。
    それにくらべて俺たちは、なんの因果でこんなところへ来ちまったのかなあ。
    これも前世の因果かなあ。

    これも誰ゆえ・・・「天皇陛下のため」か。
    冗談じゃねえや。

    この間の上靴(じょうか)ぴんたにゃまいったね。
    まだ耳がガンガンしてやがる。
    まったく目から火がでるってほんとうだね。
    ピカリでやがった。

    ちきしょう。
    上等兵のやつらまったく人間じゃねえや・・・。
    いまに見てやがれ。
    弾玉(たま)は前から来るとばかりはきまってねえんだからな。

    そうとも。
    いまにみてやがれ。
    おとなしくしてりゃ図にのりやがって・・・。
    おっと、いけねえ。

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