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終末期医療の医療費は無駄なのか?

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    Okabyです。

     

    若手論客の古市憲寿さんと落合陽一さんの対談が物議かもしていますね。
    リテラにまとめられています。
    「古市憲寿と落合陽一「高齢者の終末医療をうち切れ」論で曝け出した差別性と無知! 背後に財務省の入れ知恵が」
    https://lite-ra.com/2019/01/post-4464.html?fbclid=IwAR2Xe2xJncXaigLovVLvNFTKB8VycMCapsMO33FMLKRH-jBzEnb7PapnC9k

    この放談ね。
    ==============
    古市〈財務省の友だちと、社会保障費について細かく検討したことがあるんだけど、別に高齢者の医療費を全部削る必要はないらしい。
    お金がかかっているのは終末期医療、特に最後の一ヶ月。
    だから、高齢者に「十年早く死んでくれ」と言うわけじゃなくて、「最後の一ヶ月間の延命治療はやめませんか?」と提案すればいい。
    胃ろうを作ったり、ベットでただ眠ったり、その一ヶ月は必要ないんじゃないですか、と。
    順番を追って説明すれば大したことない話のはずなんだけど、なかなか話が前に進まない〉

    落合〈終末期医療の延命治療を保険適用外にするだけで話が終わるような気もするんですけどね。
    たとえば、災害時のトリアージで、黒いタグをつけられると治療してもらえないでしょう。
    それと同じようにあといくばくかで死んでしまうほど重度の段階になった人も同様に考える、治療をしてもらえない――というのはさすがに問題なので、保険の対象外にすれば解決するんじゃないか。
    延命治療をして欲しい人は自分でお金を払えばいいし、子供世代が延命を望むなら子供世代が払えばいい。
    こういう議論はされてきましたよね〉
    ==============

    芥川賞作家の磯崎憲一郎さんが朝日新聞(12月26日)の文芸時評で二人の発言を取り上げ、これをきっかけにネットでも批判の声が広がっていったそうで。
    〈想像力の欠如〉〈想像力と、加えて身体性の欠如に絶望する〉という感性に同感です。

    感受性のマヒ、そして人権感覚のマヒはもとより、医療経済学的にも間違いであることも指摘されています。
    (いや、このことをまっさきに僕は公表したかったけど、年末寝込んでいたので、リテラに先にこされたわ、くやしいわ)
    ==============
    古市がもちだした「お金がかかっているのは終末期医療、特に最後の一ケ月」という説じたいがあやしい。
     たとえば、日本福祉大学の二木立・前学長が死亡前医療費についての検証をおこなっているのだが、様々な論拠を示しながら「とりたてて高額でも、医療費増加の要因でもない」としている。

    (「日本医事新報」2013年3月9日号「深層を読む・真相を解く(21)」)
     この論文によると、健康保険組合連合会「平成23年度 高額レセプト上位の概要」にある1000万円以上の月額医療費がかかった179件のうち、その月に死亡したケースはわずか15件(8.4%)。

    高額医療費の年齢分布も、もっとも多かったのは0〜9歳の61件で、次は10〜19歳の30件、未成年が全体の半数(50.8%)の91件を占め、60〜74歳はわずか13件(7.3%)に過ぎなかったという。
     さらに、田近栄治・一橋大学名誉教授らによる「死亡前12か月の高齢者の医療と介護」(田近栄治、菊池潤「季刊社会保障研究」2011年12月刊行所収)という論文が、

    死亡当月まで連続して入院していた高齢者を対象として、入院開始月・診療月別の1日当たり入院医療費の実態を調査しているが、

    それによると、多くのケースで1日当たり医療費は入院開始月が最も高く、死亡当月にかけて1日当たり医療費が大きく上昇する傾向はほとんど見られないという。
     当然だろう。古市は死を目前にした高齢者が高額な抗がん剤か何かをバンバン使っているような妄想でもしているのかもしれないが、そもそも高齢で体力が落ちている状態では副作用のリスクがある高価な抗がん剤はほとんど使用できない。

    「治療」を目的とせず「緩和」「看護」が中心の終末期医療は治癒を目指す治療より金がからないというのは、素人でもわかる話だ。

    あるいは自己負担の高額なホスピスや民間医療とでも混同しているのだろうか。
    ==============

     

    しかし、リテラも指摘しているように、財務省の官僚とかは若手論客なんかにはメシでも食いながら、こういう緊縮プロパガンダをどんどん流し込んで、裏付けないフィーリングでなんとなしに騙らすようにしているのがよう分かります。

    反貧困とかポーズとっている運動家の中にも、成長は無理だから消費増税が・・・なんて言わさそうとしていませんかね?

     

    さて、こういう感受性がマヒした若造を利用した財務省のプロパガンダとは別の脈絡であっても、終末期医療には医療費の無駄があるという俗論は、著名な医者の中でもいたりしますが(そういう医者に家族を診せたくないよね)、倫理性を大事にしつつまじめに検討されている方もいらっしゃいます。

     

    ちょうど、

    山本太郎×藤井聡×松尾匡「本当に日本を再生できる みんなのための財政政策 Part3」(2019/1/19土@大阪)

    http://shiminshakai.net/post/4947

    でお話しいただく藤井聡さんです。

    藤井さんも年末のニュースでびっくり、内閣官房参与を退職されちゃいましたけど。

    https://lite-ra.com/2019/01/post-4467.html

     

    藤井さんの『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)はとても分かりやすくて賛同できる本ですけど、一つ大きな疑問があるのは、医療費抑制に言及しているところです。

    ですので、大阪でのイベントでは質問をさせていただこうかなと、でもたくさん質問が寄せられるので、資料をつけてご回答の時間がなくても意見としてお伝えしようかなと。

     

    この本では、「人間の尊厳」を尊重する社会保障ー終末期医療のあり方を考える
    (138〜143ページ)

    という節を立てています。

     

    まず、藤井さんは財務省や安倍政権のように、ひたすら社会保障費の自然増を減らせという主張ではなく、

    <言うまでもなく、(消費)増税延期を皮切りとして、財政政策を中心とした経済対策を敢行し、税収を増やすことを通して社会保障費を拡大していくことが、何よりも大切だ。仮にGDPが3〜4%程度拡大していく状況となれば、税収も少なく見積もっても2兆円程度ずつは拡大していくのであり、いとも容易く今日の社会保障費の増大を賄っていくことが可能となるからである>とし、

    しかし、<「財政法」の理念から言っても、「社会保障」は、基本的に、赤字国債を発行することなく、「税収」の範囲で(厳密に言うなら、「不況でなければ本来得るであろう税収の水準」の範囲で)進めていくことが必要なのである>し、
    <「医療水準」は、一定程度、抑制して行かざるを得ない可能性は存在し得るものと考えられる>ので
    <その背景には、少子高齢化に伴って毎年毎年1兆円規模、昨今では5000億円ずつ医療費が拡大し続けている、という傾向がある>ということで、
    <とはいえ、今後さらに少子高齢化が加速し、デフレ脱却後に期待されるこうした自然増収でもまかない切れない状況が訪れることも危惧される>というお考えです。


    そして、<実際、こうした問題がもちあがり、国民的議論を経て「医療水準の適正化」に成功した国家>として北欧の福祉国家スウェーデンの事例を紹介し、スウェーデンでは長期間の延命治療をやめているのに対し、日本ではいまだに無理な延命治療があるという認識で、
    「過剰なサービスの回避」のために、何が「過剰」なのかの国民的コンセンサスが不可欠とし、
    「人間の尊厳」の議論に基づいた、真の幸福に資する「終末期医療」のあり方を徹底的に議論していくことが求められているとしています。

    そして次に、「過剰」診療の見直しも提唱しているが(143〜147ページ)、これについては別途検討をするとして、

    終末期医療の医療費を抑制することは財政的には、無意味であることは、先述の二木立氏が紹介している医療経済学の学識からしても明らかでしょう。

     

    リテラが引用した二木さんの論考はこちら

    論文:「麻生発言」で再考-死亡前医療費は高額で医療費増加の要因か?
    (『日本医事新報』「深層を読む・真相を解く(21)」2013年3月9日号(4637号):30-31頁)。
    http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/20130401-niki-no105.html#toc1

     

    リテラを補足すると、<死亡前医療費は総医療費の3%>の根拠は、
    前田由美子・福田峰「後期高齢者の死亡前入院医療費の調査・分析」「日医総研ワーキングペーパー」144号,2007)
    http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20070711_3.pdf
    <2005年度の高齢者(70歳以上)の医療保険医療費(入院・入院外)13.3兆円の3.4%> 約4,600億円

     

    たった5千億円ぐらいの終末期医療をどう削ったって、国家予算100兆円の中では雀の涙です。

    「大砲かバターか」という古典的なことを言わせていただけるならば、

    専守防衛を逸脱したり、国防にも役に立たない装備を米国から買っているのをやめた方がよっぽど財政にとっていい。

     

    さて、さらに言うと。

    藤井さんもおっしゃるように、GDPが年数パーセント増えて経済成長を維持すれば、現状の医療制度でも財政的には何ら問題ないのです。

     

    二木立さんの論文:「骨太方針2018」と「社会保障の将来見通し」の複眼的検討

    http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/20180801-niki-no169.html#toc1

    でよくわかります。

     

    .廛薀ぅ泪蝓Ε丱薀鵐更字化の目標年を2020年度から2025年度に5年間先延ばし、2019年10月の消費税率引き上げ実施を明記した、安倍内閣の「経済財政運営と改革の基本方針2018」(「骨太方針2018」)の「将来見通し」でいえることです。

     

    <第1は、2040年度の社会保障給付費の対GDP比は「現状投影」でも23.8〜24.1%、「計画ベース」(現在行われている諸改革がすべて計画通りに実現すると仮定)でも23.8〜24.0%となり、2018年度の21.5%と比べて、2.3〜2.6%ポイント高くなるだけなことです。

    この点について、6月6日の社会保障審議会医療部会で、厚生労働省の伊原和人審議官が、「[24%という水準は]とても負担できないのではないか、という意見があったが、社会保障給付費24%が対GDP比という水準は、今のドイツに近く、フランスではもっとも高い。世界に類をみない水準というわけではない」と説明したのは、大変見識があります(m3.comレポート6月6日配信。橋本佳子編集長)。>

     

    第2に注目したことは、2040年度の数値は上述したように、「現状投影」でも、「計画ベース」でも、ほとんど変わらないことです。

    厳密に言えば、医療の対GDP比は、「計画ベース」では8.4〜8.7%で、「現状投影ベース」の8.6〜8.9%より0.2%ポイント低くなりますが、それでも2018年度の7.0%よりは1.4〜1.7%ポイント高くなります。

    このことは現在の社会保障制度を維持する限り、どんな改革を行っても社会保障・医療費の対GDP比は今後も着実に増加することを意味しています。

    この意味で、医療は「永遠の安定成長産業」と言えます。>

     

    もちろん、「骨太方針2018」の「将来見通し」は経済成長率が実質2%・名目3%という前提がありますので、名目3%の成長率を実現できないと見通しも狂うことでしょう。

     

    しかし、医療経済学では「総医療費の9割はGDPで説明できる」と言われているそうで、
    http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/20181101-niki-no172.html#toc2

    医療費増大の決定要因は確定できないようです。

     

    経済成長に応じて医療費が増えていくのか、医療費を増やせば経済成長に寄与しているのか因果関係はよくわかりませんが、経済成長が持続的にできるならば、医療費も増えるのあって、それは人々が受ける医療が充実することにもなります。

    医療費が増えるのは医療に無駄があるというデータもエビデンスもない印象・感情論から、医療を充実させるために医療費を増やすことは人々にとっていいことだという「物語転換」がされるべきではないかと思います。


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