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矢ケ崎克馬『隠された内部被曝』

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     原爆症認定集団訴訟で「内部被曝」について証言を行った琉球大学名誉教授の矢ヶ崎克馬さんがちょうど1年前に出された『隠された内部被曝』(新日本出版社)を読みました。 

     この本での趣旨は次のことです。
    < ICRPの商業原子炉等の開発についての基本思想は、「得られる利益が大きい時、犠牲もやむを得ない」ということですが、米核戦略と相まって、もっとも深刻な被曝を見えなくすることで、「犠牲が少ない」と世界を欺いたのです。
    世界を欺けるだけの「欺きの科学大系」を“世界の目”として築いてきたのです。
     内部被曝隠しが巧妙かつ大規模な仕組みで行われてきたために「間違った被曝概念」を訂正するのは難事業です。
    私たちは被爆者の放射線被曝被害からいかにして内部被曝を除外したかを中心に内部被曝隠しの実態とそこに用いられた「科学的」手法を明らかにします。>(11〜12ページ)

     現在もなお原爆症認定集団訴訟で争われている日本政府の被曝の認識が、なぜ被爆者の実態とかけ離れているのか?それは、
    <それはアメリカの核戦略の柱として、核兵器の残虐性の特徴である放射線被曝隠しが行われたから>(14ページ)であるとされています。

    つまり、
    <アメリカは核兵器の放射性物質がもたらす残虐さを隠し、「破壊力は大きいが、放射線被曝で長期に人を苦しめることはない」という核兵器の虚像を仕立て上げようとしました。また、未成熟の技術であり破局に対して無力である商業原子炉を、地域社会に押し付けるために内部被曝を見えないものする必要がありました。その放射線被曝隠しに日本政府が協力したのです。>(15〜16ページ)

     放射線被曝隠しには、次の3つの手段があるとされています。

    <(1)占領下で原爆情報を徹底して秘密管理し、被爆者をモルモット扱いにする手法で、被曝実態を調査し、被爆の実相を隠しました。
    「原爆障害調査委員会(ABCC、後の放射線影響研究所)」により内部被曝が隠され偽った放射線被害が報告されました。

    (2)国際放射線防護委員会(ICRP)基準から内部被曝を排除し、被曝の実態が見えないようにしました。

    (3)DS86等の原爆放射線量評価体系によって、放射線のうちの放射性降下物の影響を一切消し去りました。
    放射性降下物は埃ですので体内に入り、内部被曝をもたらしました。
    しかし埃であるがゆえに放射能環境は雨風で洗い清められます。
    DS86は台風で「塵」が一掃された後で採取した放射線測定値を利用して、内部被曝の原因物質である放射線降下物を隠蔽したのです。
    DS86では放射線被曝は初期放射線と中性子誘導放射化原子によるものだけに限定されました。>(16ページ)

    そして、
    <ABCC、放影研の行った“米核戦略下の業務”の人道にもとる行為>として、

    (1)被爆者をモルモット扱いにしたこと。
    (2)ICRP勧告から内部被曝を削除する措置と連携して、世界初で最大規模の「被曝人体実験(原爆投下)」の統計処理から内部被曝の指標を排除してデータ処理を行った。
    (3)放射性降下物による内部被曝を隠蔽し、2勸扮鵑里泙れもない被爆者を「非被爆者」として扱うことによって、2勸米發糧鑁者の健康障害・死亡を過小評価して見せた。
    これらが挙げられています。(37〜38ページ)

    また、
    <ICRPの基準は、放射線が与えたエネルギー(吸収エネルギー)だけで被曝を評価する体系です。その評価の特徴は、放射線が作用する具体的なメカニズムを一切捨象して、単純化・平均化がなされることです。>(39ページ)
    < 例えば、劣化ウラン弾のエアロゾールによる被曝はアルファ線による集中的電離作用と微粒子形成による継続的被曝を考察せずに、平均化、単純化、具体性無視のICRPにしたがえば、半減期が長いことから単位時間当たりの被曝量は無視できるほど少なくなり、数十グラムの劣化ウランを飲み込んでもがんなどの疾病はあり得ないと結論付けられるのです。>(40ページ)

     このように、アメリカの核戦略に基づいて放射線被害を過小評価している歴史的背景がよくわかる本ですが、次のような疑問があります。

     ICRPは<内部被曝を除外>したとしていますが、
    ICRPの基本的考え方には、内部被曝の線量評価がされています。
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/sonota/990401f.htm
    矢ケ崎さんも、<内部被曝を完全に除外している>と言っているのではなく、<内部被曝に関する評価は著しく過小評価>(123ページ)とも書いていますので、ICRPの内部被曝の評価は過小なのだとすると、実態はどの程度なのかの評価をわかりやすく知りたいところです。

     ICRPの基準に対抗するものとしてはECRR(欧州放射線リスク委員会)の評価がよく引き合いに出されていて、矢ケ崎さんも<ECRRが内部被曝を評価して戦後6500万人に及ぶ放射線被曝による死亡者をカウントしていることを真摯に受け止める必要があります>(123ページ)と述べられています。
     しかし、「熊取六人衆」の一人である京都大学原子炉研究所の今中哲二さんは、
    ECRRの内部被曝の扱いをある程度評価しつつも、
    <ECRRのリスク評価は、「ミソもクソも一緒」になっていて付き合いきれない>
    <ECRRに安易に乗っかると、なんでもかんでも「よく分からない内部被曝が原因」となってしまう>
    <湾岸戦争でのDU弾使用とその後のバスラ住民の「健康悪化との相関関係」に関するデータはたくさんあるが、「放射線被爆との因果関係」を示唆するデータはほとんどない>
    とまとめられています。
    http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No99/imanaka041215m.pdf

     ICRPという体制に対するアンチだからといって、ECRRは妥当なカウンター情報とはなりえないのかなと思ってしまいます。両者の間に妥当な基準があると観た方がいいのかなと。

     こうした疑問があるにせよ、
    < 科学的不正あるいは粉飾行為は、科学的に総括されない限り、「科学」自体をも粉飾してしまう作用がある>(55ページ)
    という、矢ケ崎さんが問う科学者の社会的責任については、原爆症認定行政はもちろんのこと、今もなお終息のめどがたたない福島原発事故でもまさに追求されるべきことだと思いました。


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